認知症と降圧薬
血液脳関門(Blood-brain barrier)を通過しやすい降圧薬は記憶力の低下をおさえる? Blood-Brain Barrier Crossing Renin-Angiotensin Drugs and Cognition in the Elderly: A Meta-Analysis.Hypertension (Dallas, Tex. : 1979). 2021 Jun 21
2018年のSPRINT-MINDという試験結果では厳しい血圧管理をして収縮期血圧を120以下に抑えれば、標準的な血圧管理を行った場合と比べ、高齢の高血圧患者の軽度認知障害(MCI)リスクが19%低下することが指摘された。つまり、しっかり血圧を管理すれば認知症になりにくい、という報告でした。
今回の論文では降圧薬の種類である、ARB、ACE阻害薬の中でも血液脳関門を通りやすいとされる薬とそれ以外の薬で記憶力の低下を比較する解析を行った。 その結果、血液脳関門を通過しやすいテルミサルタン、オルメサルタン、カプトリルを用いたグループで記憶力の低下が緩徐になる傾向があった。
まだ、決定したわけではないが、記憶力の低下に対してはこれらの薬を使って血圧をコントロールしたほうがよりいいかもしれない、と言えるようです。
日本高血圧学会の指針では 75歳以上の高齢者は140/90以下(診察室) 135/85以下(家庭) を目指すようにされているのですが、120/ 以下ということはさらに低い血圧を目指さなくてはいけないようです。
しかし、あまり急に下げすぎても動脈硬化がある場合、組織の還流圧が低下して低酸素に陥る危険が上がると考えられますのでやみくもに薬だけで下げるという考えでは危険ですね。体重を減らす、減塩する、禁煙する、運動するなど総合的にゆっくり確実に血圧が下がるようにしながら、薬は補助でつかうくらいの気持ちが大切とおもわれます。そして、高齢者の記憶力にスポットを当てれば、使う薬はテルミサルタン(ミカルディス)、オルメサルタン(オルメテック)がよさそうですね。この2つもそれぞれ少し芸風がちがうようですが、またの機会に。もちろん、ARBにはこのほかにもいい薬がたくさんあります。現在の高血圧治療には欠かせません。
血液脳関門とは: 脳は特殊な臓器で血液を流れるいろいろな物質から脳が守られるよう血管内皮細胞にバリアの働きがあります。必要な物質を取り込み、不要な物質を排出する機能を持っている、と言ってもいいかもしれません。別の見方をすれば、アルツハイマー型認知症に効く薬を開発しても血液脳関門を通過できなければその薬は脳内に到達できない、ということになります。降圧薬では上記薬物が通過できるようです。 2021.7.10